女性の冷え症に対する鍼灸治療の効果 ―2症例報告・データの取り方・冷え症鑑別方法―|鍼灸OSAKA|専門誌・学会論文|大阪市天王寺区のまり鍼灸院

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専門誌・学会論文

2021年07月08日

女性の冷え症に対する鍼灸治療の効果 ―2症例報告・データの取り方・冷え症鑑別方法―

※まり鍼灸院の論文を一部引用して、一般の方にもわかりやすく書き換えています。

Ⅰ. はじめに

今回は、「女性の冷え症に対する鍼灸治療の効果」について報告しました。今後、鍼灸治療が冷え症に悩む多くの女性の治療の選択肢となることを願っています。

Ⅱ. 症例報告

症例(1)
年齢

40代、女性

主訴

自律神経失調症(足先の冷え・めまい・しびれ・便秘・頭痛)肩凝り・腰痛

現病歴

X-1年春に冷え・めまい・手のしびれ等の不定愁訴が出現し、耳鼻科にて自律神経失調症の診断を受けた。同年冬頃には症状が楽になっていたが、X年春に再び、症状が出始めた。当院に来院していた友人の紹介でX年秋に来院。当時は肩凝り、手のしびれの為、整形外科にて首の牽引をしていた。

初診時所見

冷え症判別式(表1・3)で本態性の冷え症と判定。VASは69mm、冷え日記の内、冷えの項目は4点、肩凝りも4点であった(表2)。(冷え日記は0から5の6件法で解答してもらい、数値が大きいほど症状は強い。)冷え以外に、めまい・しびれ・便秘・頭痛等の自律神経症状と肩凝り・腰痛の訴えあり。

臨床経過(図1)
調査期間
X年9月からX+1年10月までの約1年間。
通院回数
38回
通院頻度
X年9月~X年12月は1回/週。
X+1年1月~X+1年5月は1回/1・2週。
X+1年6月~10月は1回/2・3週。

図1

効果
治療開始4か月後(1月)
  • VASは初診時69mm→40mmに約40%改善。
  • 冷えは4から3点、肩凝りは4から2点へと改善。
  • めまい・しびれ・頭痛等の自律神経失調症状や様々な不定愁訴も消失。
治療開始1年後
  • VASは初診時69mm→38mmに約55%改善。
  • 冷えは4から2点、肩凝り4から3点に軽減。初診時と同じ季節である1年後、VASは約半減した。
患者様の声
  • 毎日の生活が過ごしやすくなっている。毎年冬になると太ももにまでカイロを貼っていたが、その必要がなくなった。
考察

患者は、自律神経失調症と診断され、強い冷えを長年に渡り感じていた。初診時の9月(秋)と、1月(冬)のVASの数値を比較すると69→40㎜に改善している。冬に向けて外気温が下がり冷えを強く感じるはずだが、自覚的な冷えは軽減している。また1年後の同じ季節の比較においてさらにVASの軽減が見られることから、継続した鍼灸治療が冷えに対して効果があることが示唆された。

症例(2)
年齢

40代、女性

主訴

バストアップ・美顔・更年期症状(冷え・イライラ・不眠・肩凝り・むくみ・眼精疲労)

現病歴

X年4月にバストアップ・美顔等の美容を目的に来院。冷え・イライラ・肩凝り・足のむくみ・眼精疲労等の更年期症状を日常的に感じていた。不眠症状として1晩に2・3回ある途中覚醒と、その後なかなか寝つけないことに悩んでいた。また、体質改善により症状改善を望んでいた。

初診時所見

冷え症判別式にて、本態性の冷え症と判定(表1・3)。VASは49mm、冷え日記の内、冷えの項目は3点、肩凝りは5点であった(表2)。(冷え日記は0から5の6件法で解答してもらい、数値が大きいほど症状は強い。)冷え以外にイライラ・肩凝り・足のむくみ・眼精疲労・不眠症状の訴えがあった。

臨床経過(図2)
調査期間
X年4月からX年9月までの約6か月。
通院回数
25回。
通院頻度
  • X年4月~5月は1~2回/週。
  • X年6月~7月は1回/週。
  • X年8~9月は1回/1・2週。

図2

効果
治療開始1か月後(5月)
  • VASは初診時49mm→20mmに約60%改善
  • 冷えは3から0点、肩凝りは5から2点に改善。
  • 冷えの改善と共にイライラ・眼精疲労も軽減していた。不眠症状の途中覚醒も1晩に2・3回から1回程度になり、途中起きてもすぐに眠れるようになった。
治療開始6ヶ月後
  • VASは初診時49mm→10mmとなり約80%減少。
  • 冷えは3から0点、肩凝りは5から4点となった。
患者様の声
肩凝りは重い荷物を持った時に感じることはあったが楽になっていた。
初診時の悩みであった美容に対する効果も実感し、イライラ・眼精疲労等の更年期症状も楽になった。不眠については鍼灸治療前に比べ途中覚醒が減り質も良くなった。
考察

治療開始1か月後からVASが49→20㎜となり大幅な減少が見られた。更年期症状の軽減や不眠症状の改善から、短期間の鍼灸治療の効果が示唆された。
4月(春)から9月(秋)までの調査の為、外気温が上昇していく時期であるが、患者は“夏でも手足が冷える”“夏でも厚手の靴下を履くのが好きである”の質問に対し、「思う」と答えている為、VASの減少から見ても、冷え症に対する鍼灸治療の効果があることが示唆された。

Ⅲ. 対象・方法

調査時期

1ヵ月ごとの来院日に1週間を振り返り、過去の問診票を見ずに、自己評価をしてもらった。

鍼灸治療

本治として随証治療による全身治療と標治としての局所治療を組み合わせた。

対象者

初診来院時に冷え症を自覚する者の内、冷え症をきたす基礎疾患がなく坂口らの冷え症判別式(表1・3)で冷え症と判定された方。

評価

冷え症に対する鍼灸治療の効果を、冷え日記(表2)の中から横型100㎜のVAS (Visual Analogue Scale)による冷え症の程度で評価。
同じく冷え日記の中から、「冷え」と坂口らが選択した冷え関連5症状の内の「肩凝り」の2項目の得点変化から0~5の6件法を用い検討した。