末梢性顔面神経麻痺完全脱神経型に対する鍼灸治療の効果 ―発症1年以内、14名の検討―|全日学会誌|専門誌・学会論文|大阪市天王寺区のまり鍼灸院

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専門誌・学会論文

2021年06月17日

末梢性顔面神経麻痺完全脱神経型に対する鍼灸治療の効果 ―発症1年以内、14名の検討―

※まり鍼灸院 院長 中村真理の論文を一部引用して、一般の方にもわかりやすく書き換えています。

Ⅰ. 緒言

完全脱神経型顔面神経麻痺(以下、完全麻痺)は、後遺症の出現率が高く、完治するのは難しいとされています。しかし、臨床上、鍼灸治療により完全麻痺が改善することを経験しています。
そこで今回、一鍼灸院において、初診時に発症後1年以内の完全麻痺患者を調査し、鍼灸治療の効果や満足度を検討しました。

Ⅱ. 対象

対象
  • 2009年7月~2019年6月に末梢性顔面神経麻痺を主訴として来院した患者90名の内、以下の条件を満たす14名(男性5名、女性9名、平均年齢40±15.9歳)とした。
  • 鍼灸初診時に発症後10日以上1年以内の方
  • 鍼灸治療10回以上受けている方
  • 日本顔面神経学会の基準で完全麻痺に当てはまる柳原法10点以下(鍼灸初診時)
  • 後遺症の対象者は、発症後1年以上経過観察できた14名中8名とした(男性3名、女性5名、平均年齢42.5±29.3歳)
  • 満足度調査の対象は、14名中12名とした(男性4名、女性8名、平均年齢40.3±16.6歳)
※14名の病院での治療内容
  • 3名が病院でのステロイドを含む全ての治療を受けていなかった。(2名は発症時妊娠中で、1名は糖尿病に罹患)。
  • 11名は、病院でのステロイド治療等を受けても改善が見られなかった。(11名中3名が減圧手術、1名が星状神経節ブロックを受けていたが改善がみられなかった。)

Ⅲ. 方法

評価法
(1)柳原法(顔面の筋肉の動きを測る尺度10項目)
  • 40点満点で38点以上を完全治癒の1つの基準とする。評価は施術者以外の第3者が行う。(引用:顔面神経麻痺の評価up-to-date.)
  • 合計点数と10項目の各々の点数について、初診時(以下、初)と、治療最終時最大35回(以下、最終)の変化を比較検討した。
  • 初診時発症日数別(初診時発症後30日以内か、初診時発症後31日以上に分類)の回復傾向について、点数変化を個別に時系列で比較検討した。
(2)Sunnybrook(顔面神経麻痺による後遺症を測る尺度)
  • 計算式に当てはめ、複合スコアを出す。最低:0点、最高:100点とする。点数が高いほど、正常に近い。(引用:(株)医歯薬出版、顔面神経麻痺のリハビリテーション)
  • 発症後1年以上経過した後に調査。
  • 他の後遺症である、拘縮・ワニの涙、痙攣等については診療録にて調査し、軽度・中等度・重度に分類した。
(3)満足度:10点法(鍼灸治療に対する患者様の評価点数)
  • 最終時点に10点法を用い調査し、7点以上を満足とした(点数が高い程、評価が良い)。満足度と柳原法最終点数の相関性についても検討した。
統計ソフト
  • SPSS(Ver.26 for windows IBM Inc.)を用いた。
  • 初と最終の柳原法点数と、柳原法10項目別の評価時点の比較には対応のあるt検定
  • 満足度と柳原法最終の点数の関係をピアソン積率相関係数。
  • 有意水準は何れも5%未満とした。
同意書
  • 被検者に提示するアウトプット形式を採用した。
  • データについては、個人が特定できないように配慮し、学会などで使用することを初診時に口頭にて同意を得た。
  • 写真の使用については、患者本人から同意書を得た。
  • 本研究は森ノ宮医療大学倫理委員会の承認(2019-097)を得た。
鍼灸治療
  • 全身調整として、随証治療を施し(図1)、各治療日に患者本人が気になる症状に合わせて顔面・頭部の8穴を選択して、単回使用毫鍼を15mm横刺した。
  • 治療頻度は、治療開始後2ヵ月までは週2回、3ヵ月目からは週1回程度とした。
  • 平均治療回数は、28.5±8回(最大35回)。

Ⅳ. 結果

  • 柳原法点数平均点の変化は、初が6.0±3.6から最終35.4±5.5と有意に改善しました。
  • 柳原法項目別の変化は、10項目全てにおいて有意に改善しました。
  • 鍼灸治療最終における柳原法完治38点以上は、14名中7名と対象者の50%でした。

  • 初診時発症日数別の回復傾向として完治している者は、初診時発症後30日以内の者が多かった。また、鍼灸治療開始後10回から15回で顕著に改善傾向を示しました。

  • 後遺症として、発症後1年以上経過観察できた8名の中で柳原法38点以上の4名は、Sunnybrookも拘縮・ワニの涙、痙攣について軽度でした。柳原法36点以下の4名は、Sunnybrook病的共同運動の中等度が1名、他3名は軽度でした。
  • 鍼灸治療に対する満足度10点法は、7点以上が100%、8点以上で91.7%と高い満足度が得られました。満足度と柳原法最終点数の間に有意な相関はみられませんでしたが、柳原法の最終点数が38点に達していなくても満足度は高かったです。

Ⅵ. 考察

結果より、

  • 完全麻痺対象者の50%が完治レベルまで治癒したことより、鍼灸治療により完全麻痺の症状が改善する可能性が示唆された。完治レベルに達しなかった対象者も改善する可能性が示唆された。
  • 鍼灸治療により、顔面神経麻痺が発症して1年後の後遺症が軽減することが示唆された。
  • 病院でのステロイド治療を受けても、麻痺が改善しなかったり、妊娠や糖尿病等でステロイドを受けられなかったりした場合には、鍼灸治療が選択肢の1つになり得ると考える。
  • 鍼灸治療開始後10~15回の間は柳原法の改善度が高いので週2回程度の治療が望ましいと考える。
  • 鍼灸治療の満足度については、10点法の7点以上が100%であった。鍼灸治療による麻痺症状の改善が将来に対する不安を取り除き満足につながったと考える。

Ⅶ. まとめ

  • 完全麻痺は、後遺症の出現率が高く、完治するのは難しいとされている。今回、完全麻痺患者14名に鍼灸治療を行い、50%の7名が完治した。
    未完治の7名も柳原法は改善しており、悪化した症例はなかった。
  • 満足度10点法は完治・未完治ともに高く、満足を示す7点以上が100%であった。
    将来に対する不安感を軽減することが示唆された。
  • 今回は一鍼灸院の症例集積であるが、完全麻痺に対する鍼灸治療が患者の治療の選択肢の1つになり得ることが示唆された。