専門誌・学会論文
2020年12月28日
全日本鍼灸学会雑誌 2018年68巻1号(ヒップアップの効果)
鍼灸治療によるヒップアップの効果
※まり鍼灸院 院長 中村真理の論文を一部引用して、一般の方にもわかりやすく書き換えています。
Ⅰ.緒言
美容を目的とした鍼灸(以下、美容鍼灸)1,2)は、定義が確立したものではないですが、身体の表面(皮膚・頭髪・体型)に現れた異常に対し、鍼灸を主体として心身機能のアンバランスを個人の体質に合わせて調整するものと考えます。美容鍼灸は近年鍼灸の一分野として注目されています。臨床研究では身体表面の異常(患者のニーズ)に対し、その局所にアプローチするものは散見されます1,2)が、美容鍼灸の主体となる患者の内面(個々の体質や精神状態・ストレス状態)を考慮した成果はみられません。
我々は、中医弁証による患者個々の体質を考慮した内側からの治療(本治法)と症状に対する局所治療(標治法)を組み合わせた臨床を実践しています。美容領域について本治療院では、患者のニーズが高いヒップに対する悩みに特化した「ヒップアップ治療」をメニューとして提供しています。この治療は、中医弁証による全体的治療と腰臀部(腰部・大殿筋・中殿筋)への低周波鍼通電療法による局所および骨盤内の血流改善を目的としたものです。
本研究では、約6年間の症例について、ヒップアップ治療の効果を主観的・客観的に検討しました。
Ⅱ.対象と方法
1.対象
対象期間は、2007年10月~2013年12月。
本鍼灸院に来院した女性患者80名(平均年齢40.0±4.8歳)。
80名は「ヒップアップ治療」の施術を9回受け、問診票記入に同意・協力の得られた方。
2.評価項目
(1)自記式評価票(表1)
鍼灸治療によるヒップの状態の変化を把握するのに、独自に作成した自記式評価票を用いた。
調査項目
①ヒップアップ治療受療動機
②ヒップの状態5項目(たるみ・大きさ・形・大腿部の太さ・総括的状態)
③随伴症状3項目(肩こり・腰痛・便秘)
※②③の評価は0~10の11段階の数値尺度法 (Numerical Rating Scale;NRS)で回答してもらった。
④治療満足度は10点法で回答してもらった。
評価は、第1回目の治療前(治療前)と第9回治療終了後(治療終了後)に行った。
表1
(2)ヒップサイズの計測(図1)
図1
3.鍼灸治療法
(1)全体的治療(本治法)
中医弁証論治による配穴法を用いました。
弁証は、望聞問切の四診法を用いて総合的に判断し、それに基づく個別治療を行いました。
本治法は、大きく気虚タイプ、陰虚タイプ、痰湿タイプの3つに分けています。
刺入深度は術者の手に響きを感じる程度としました。
冷えや痰湿の症状が強い時には、8分灸も併用しました。
(2)局所治療(標治法)
腰殿筋の血流量と殿筋強化と骨盤内の血流改善をする目的として腰部と大殿筋・中殿筋に低周波鍼通電療法(Electrical Acupuncture Treatment:EAT)5)を行いました。
周波数は1~3Hzで、強度は8分間疼痛閾値以下で筋収縮がみられる程度7)とし、治療頻度は、1~2週に1回としました。
4.統計解析
治療前と治療終了後の各尺度の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いました。解析ソフトはSPSS(Ver.19 for Windows, SPSS Inc)を用い、有意水準は5%としました。治療満足度については回答結果から、0~3点を‘不満’、4~6点を‘普通’、7~10点を‘満足’としました。
Ⅲ.結果
1.ヒップの状態(図2)
形・たるみ・総括的状態・大腿部の太さ・大きさについて、治療終了後に、全ての項目のスコアに有意な改善がみられました。
2.随伴症状(図3)
肩こり・腰痛・便秘について、治療終了後に、全ての項目において有意な改善がみられました。
3.治療満足度
鍼灸治療によるヒップアップの効果に対する満足度は、‘満足’とした患者が87.6%でした。
一方、‘不満’はみられませんでした。
4.ヒップサイズ
上仙穴から左右のトップまでの長さ(㎝)
[治療前→治療終了後]は、左14.9±3.2→14.3±2.9、右15.4±3.3→14.7±2.9で有意に短くなりました。
上仙穴から左右のヒップ下までの長さ
[治療前→治療終了後]は、左26.3±2.3→25.71±2.5、右27.0±2.5→26.3±2.5となり、右側のみ有意に縦の長さが短くなりました。
5.ヒップアップ治療受療動機
不妊が31.5%
婦人科系(婦人科疾患、月経随伴症状等)16.7%
美容13.9%
腰痛16.7%
健康向上20.4%
その他0.9%
図2
図3
Ⅳ.考察
1.結果の概要と美容鍼灸の現状からみた本研究の意義
美容鍼灸の一つとしてのヒップアップ治療は、弁証論治による本治法と腰殿部の筋肉に対するEATとの組合せにより、ヒップの状態(たるみ・大きさ・形・大腿部の太さ・総括的状態)、随伴症状(肩こり・腰痛・便秘)が改善し、あわせて高い満足度が得られました。
2.ヒップアップ効果の機序
歩行に必要な殿筋の血流改善がなされたことで、うまく使えていなかった筋肉が使えるようになり、日常生活の歩行などの運動により筋力が向上したのではないかと考えます。腰臀部・下肢の筋力強化により筋ポンプ作用が活性化して、持続的な骨盤・下肢の血流改善が可能となることが期待できます。婦人科系症状・不妊症状やヒッアップ、腰痛、健康向上の異なる症状が同一の標治で改善できると考えます。
3. 受診動機からみた本治療の意義
ヒップアップ治療の受療動機は、不妊症・婦人科系・腰痛・美容(ヒップアップ)・健康向上と多岐にわたりました。
臀部の状態の改善(図2) とヒップサイズの改善から、下肢の筋肉が向上したと考えられます。
アンチエイジング・美容目的であるヒップアップが実現可能であると考えられます。
自覚的にも他覚的にも下肢筋力が向上した結果から、腰痛も根本的改善に繋がっていると考えられます。
随伴症状(肩こり・腰痛・便秘)の改善(図3) から腰痛・便秘の改善は、骨盤血流改善により骨盤内内臓の機能が向上した影響と考えられます。このことは、同じ骨盤内臓である子宮や卵巣についても、血流改善を通して、産婦人科系症状の改善をはじめ、肩こりの改善から、全身症状も改善する可能性を期待させるものです。
受療患者の治療目的は産婦人科系、不妊症、腰痛、美容、健康向上と様々であるが、ヒップアップ治療の本治と標治による鍼灸治療が異病同治を可能にしていると考えます。
4. 本研究結果の限界と今後の課題
この研究は一鍼灸院の成果の集積であり、症例数も80名と多くはない。今回はヒップアップの効果のみならず、婦人科系症状の改善もみられています。よって今後は、さらに症例を集積するとともに、月経随伴症状日本語版(MDQ; Menstrual Distress Questionnaire)との関連性などについても検討する予定です。
V.結論
平均年齢40歳の女性患者80名にヒップアップを目的に全体的治療と局所的治療を組み合わせた鍼灸治療を9回行いました。
その結果、
ヒップの状態においては、対象者の主観的評価により、形・たるみ・大腿部の太さ・大きさ・総括的状態において悩みスコアのすべてに有意な改善が確認されました。また、写真による客観的評価においても改善がみられました。
随伴症状においては、対象者の主観的評価により肩こり・腰痛・便秘において悩みスコアのすべてが有意に改善されました。
治療満足度は87.6%でした。
ヒップサイズからヒップが引き締り、上方向へ引き上がりました。
以上より、鍼灸よるヒップアップ治療は、美容ニーズに対する効果と満足度をもたらし、随伴症状の改善にも効果的でした。
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