女性心身医学 2018年11月号(女性の不眠症)|女性心身医学|専門誌・学会論文|大阪市天王寺区のまり鍼灸院

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専門誌・学会論文

2020年07月17日

女性心身医学 2018年11月号(女性の不眠症)

女性の不眠症に対する鍼灸治療の効果

※まり鍼灸院 院長 中村真理の論文を一部引用して、一般の方にもわかりやすく書き換えています。

I. はじめに

近年、女性は、社会進出の増加により睡眠障害に影響されやすい環境にあります。元来女性は、月経随伴症状や更年期症状として不眠症が出現しやすく、月経随伴症状日本語版(MDQ)の集中力に関する尺度にも不眠の項目が含まれています。
「睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版」によると、不眠症の治療には、薬物療法と非
薬物療法があります。しかしその中に鍼灸治療は含まれていません。しかし、鍼灸治療は自律神経の調節や筋緊張の緩和、筋血流量の増加により、広範囲の疾患・症状に対して効果があることは既に報告されています。今回は対象者を女性に限定して、不眠症に対する鍼灸治療の効果を、約5年間診療録を調査し、検討したので報告します。
また、他にも鍼灸治療が不眠症に効果があることを述べた論文が多数あります。

II. 方法

1. 対象
  • 対象期間は、2012年6月~2017年8月(5年2ヶ月)。
  • 本鍼灸院に来院した女性患者59名(平均年齢43.5±7.4歳)。
    そのうち、「不眠症」を訴え、初診から1ヵ月以上鍼灸治療を受け、さらに評価表記入に協力の得られた方。
  • アトピー性皮膚炎を有する者、不妊治療中の者、およびアテネ不眠尺度(後述)において合計得点4点未満で不眠症の疑いがないとされる者は解析対象から除外した。
2. 評価方法
(1)アテネ不眠尺度(表1)

鍼灸治療による不眠症の効果判定には、アテネ不眠尺度(以下、AIS)を使用した。

  • AISとは・・・
    世界保健機構(WHO)が中心となり設立した「睡眠と健康に関するプロジェクト」が作成した、国際規格の不眠判定法。
  • 「寝つき」「中途覚醒」「早朝覚醒」「総睡眠時間」「睡眠の質」「日中の気分」「日中の身体的精神的活動」「日中の眠気」について1ヵ月間を1周期とし、0~4の順序得点で回答。
  • 合計得点が
    0~3点  ⇒ 不眠症の疑いなし
    4~5点  ⇒ 不眠症の疑いが少しあり
    6点以上 ⇒ 不眠症の疑いあり

表1

3. 調査時期
  1. 初診時(以下、初診)
  2. 治療開始後1ヵ月(以下、治1)
4. 統計解析

初診と治1はAIS 8尺度別、合計点数ともにノンパラメトリック分析として、各尺度得点の比較にはWilcoxson符号付順位和検定を用いました。解析にはSPSS(Ver.19 IBM)を用い、有意水準は5%としました。

5. 鍼灸治療

鍼灸治療は、中医弁証論治による体質の根本的治療である本治と、表面に現れている症状を治療する標治に分けられます。

(1)本治

中医弁証論治による配穴法を用いました。
東洋医学的には不眠は大きく2つのタイプに分けられます。

  1. 心陽亢進タイプ(心腎不交・肝陽亢進・痰熱)
    ストレスや更年期、暴飲暴食などで血が頭に昇って眠れなくなる実証タイプ。
  2. 心の虚証タイプ(心脾両虚)
    疲労による血液循環量や血液を送る力(推動力と言われる)の低下や血の不足などにより「心≒脳」が栄養不足となり眠れなくなるタイプ。

各タイプ別にツボの組み合わせが異なり、これを中医弁証配穴と言います。

(2)標治(図1)

今回不眠症の標治として、頭部の気血津液を調節する目的で、右厲兌(ST45)と左大敦(LR1)を用いました。

  • 厲兌・・・
    身体の熱症状を取ったり、胃腸の働きを良くして頭部の気血津液の巡りを良くする。
  • 大敦・・・
    ストレスや更年期によるイライラを鎮め、全身の気の流れを良くし頭部の気血津液の巡りを良くする。
  • 厲兌・大敦・・・
    頭部の充血症状を緩和したり、気血津液の巡りを良くしたりする。
    頭部の充血やイライラがとれ、気血津液が巡って頭部に栄養が行き渡り不眠症の改善に繋がる。

図1

III. 結果

1. 対象者の年齢構成(図2)
  • 30代・40代がともに22%で最も多く、次いで60代以上が15%でした。
2. 平均治療回数
  • 1クール(1ヵ月当り)の平均治療回数は4.1±0.8回でした。
3. 鍼灸治療によるAIS 尺度得点の変化(図3、図4)
  • AIS 8尺度「寝付き」「途中覚醒」「早朝覚醒」「総睡眠時間」「睡眠の質」「日中気分」「日中活動」「日中眠気」の全てにおいて有意な改善がみられました。
  • AIS合計得点においても有意な改善がみられました。

図2

図3

図4

IV. 考察

  • 初診と治1を比べると1ヵ月でAISの各8項目得点、合計点数ともに有意な改善がみられました。鍼灸治療が女性の不眠症を改善する可能性が示唆されました。
  • 中医学では同じ病に対して各々の体質に合わせた異なるツボの組み合わせで治療することを、同病異治と言います。今回の本治がこれにあたります。また、異なった症状を訴えていても、同じツボの組み合わせで治療することを異病同治と言います。厲兌(ST45)や大敦(LR1)には、頭部の気血を流れやすくしたり、引き下げたりする効能があり、これらの組合せは自律神経の調節を有するとされます。これら本治と標治を組み合わせることで女性の不眠症が有意に改善したと考えます。
  • 病院で不眠症に対する鍼灸治療の効果を追試すべく実践するには、今回の中医弁証論治の鍼灸治療は手間が掛かり過ぎます。そこで、鍋田らの温灸を用いた灸セルフケアのツボの組み合わせ(図5)、著者が示す標治の厲兌(ST45)・大敦(LR1)を組み合わせても不眠症の改善が期待できると考えます。
  • 患者にセルフケアとして自宅で温灸を実施してもらい、病院では、標治法として刺絡をする方法が良いと考えます。時間のかかる中医学弁証論や本治をせずとも、不眠症に対して一定の鍼灸治療が病院で実践できます。

図5

V. 結語

  • 不眠症を訴える女性患者59名(平均年齢43.5±7.4歳)に中医弁証論治による本治と、共通配穴を標治として組み合わせた治療を1ヵ月で平均4.1回行いました。その結果、AIS 8
    項目の各得点および合計点数に有意な改善がみられました。
  • 鍼灸治療は女性の不眠症を改善させることが示唆されました。

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