全日本鍼灸学会雑誌 2019年8月号(小児の夜泣き)|全日本鍼灸学会雑誌|専門誌・学会論文|大阪市天王寺区のまり鍼灸院

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専門誌・学会論文

2020年06月01日

全日本鍼灸学会雑誌 2019年8月号(小児の夜泣き)

夜泣き児83例に対する
小児はりきゅう治療の効果

※原著論文を一部引用して、一般の方にもわかりやすく書き換えています。

I. 緒言

小児はりきゅう治療を希望される保護者は、育児書を読み、眠れるとされる方法を実践しても、お子様の「睡眠症状(広義の夜泣き)」は改善せず、自分の育児や接し方に問題があると周囲から指摘され、悩んで来院されるケースが多いです。

小児はりの治療は、

  • 刺さずに皮膚に触れるだけの軽くて気持ちの良い刺激が多いです。
  • はりを刺さないため、保護者も安心してお子様に施術を受けさせることができます。
  • 臨床では数回の治療で、お子様の強ばった表情や夜泣き.カンムシ(イライラ・キーキ―等)が改善することを実感しています。

日本での「小児はり」は250年の歴史ある鍼灸治療のひとつです。近年の報告では、その治療件数は減少傾向にあると言われますが、本鍼灸院でのニーズや臨床の手応えとしては、とても効果的な治療と実感しています。そこで今回、夜泣き児83症例について6年間診療録を振り返り、治療効果を検討しました。

II. 方法

1. 対象
  • 対象期間は、2012年9月~2018年9月(6年1ヶ月間)。
  • 本鍼灸院に初診で来院した、小児患者134名。
  • そのうち、初診時「睡眠症状(広義の夜泣き)」の調査でスコア1以上に記載のあった83名。
  • 男児38名、女児45名、平均年齢2.2±2.8歳。
2. 小児はりきゅう治療
  • 銀製鍉鍼(刺さない鍼)を用いて、随証治療(東洋医学的に各体質別治療)をした。
  • 大師流小児鍼(刺さない鍼)を用いて皮膚の緊張している部分の調節をした。
  • 線香灸(線香の熱を身体に近づけて温める方法)を、冷えや湿り気のある部分に施した。
  • 灸点紙を用いた灸治療(半米粒大の8分灸を3壮)が可能な小児には、線香灸の代わりに共通穴に施灸した。線香灸は0歳~3歳ぐらい、灸点紙を用いた治療は3歳以降の、治療中に安静が保てる小児に用いた。
  • 治療頻度は1~2週に1回とした。
  • 証(各体質)は、望聞問切の四診法を用いて東洋医学的に判断した。証は大きく3つ腎気虚・脾気虚・肝鬱気滞に分けて配穴した。
3. 評価項目・効果判定

小児はりきゅう治療による「睡眠症状(広義の夜泣き)」の変化を把握するため、小児はり学会認定の自記式評価票から次の項目を抜粋した自記式評価票(表)を用いた。

調査項目は、
①大項目 ⇒ 「睡眠症状(広義の夜泣き)」に対する保護者の気になる程度
②小項目 ⇒ ‘(狭義の)夜泣き’‘寝付きが悪い’‘途中覚醒’の3項目
③一晩の途中覚醒の回数
④小児はりに対する保護者の治療満足度

4. 統計解析

4回の治療による①~③の項目得点の変化には、Wilcoxon符号付順位和検定を用いた。
④の満足度については、改善傾向と満足度をl×m検定を用い比較した。なお、統計解析には、SPSS(ver1.5 for windows IBM Inc.)を用い、有意水準は5%とした。

III. 結果

  1. 大項目「睡眠症状(広義の夜泣き)」に対する保護者の気になる程度(図.1)
    ⇒4回の治療により有意に改善した。
  2. 「睡眠症状(広義の夜泣き)」の小項目(3項目)の程度(図.2)
    ⇒4回の治療で、全項目が有意に改善した。
  3. 一晩の途中覚醒の回数(図.3)
    ⇒4回の治療で、有意に改善した。
  4. 小児はりに対する治療満足度(図.4)
    ⇒90.4%の人が満足し、25点以下の‘不満’はみられなかった。

図1

図2

図3

図4

IV. 考察

1. 結果からみた本研究の意義
  • 刺さない鍼、即ち鍉鍼・大師流小児はりと線香灸や灸点紙を用いた灸治療を組み合わせた治療により、大項目「睡眠症状(広義の夜泣き)」、とその小項目‘(狭義の)夜泣き’‘寝付きが悪い’‘途中覚醒’3項目と途中覚醒の回数において、4回の治療で有意な改善を示し、治療満足度も非常に高かった。この結果から小児はりきゅう治療の夜泣きに対する有効性が示唆された。
  • 大項目「睡眠症状(広義の夜泣き)」の治療によるスコア変化と治療満足度の関連性に有意差はみられなかった。普通はスコアが良い(高い)人の満足度が高いが、今回はスコアが低くても満足度が高い結果となった。その点については、睡眠症状以外の症状の変化や子育て等に対する指導への、満足や納得を含んでいる可能性がある。
  • 鍼灸院に「睡眠症状(広義の夜泣き)」で来院する小児は、色々な方法を試してもよい結果が得られなかった者が多い。周囲から寝かしつけ方法や育てる環境を整えていないと言われ、初診時に今までの辛さから涙する母親も多い。小児はりきゅう治療は自律神経を調節して小児の夜泣きを改善する可能性がある。
2. 小児はりの過去の研究

小児はりは歴史ある治療法であり、臨床的にも有効であると実感しています。しかし、小児はりの研究は少なく、1929年に藤井8)は、血圧・呼吸・体温・腸運動などについて行った研究で、「小児鍼は皮膚知覚を介して交感神経の緊張状態を変化させる一種の変調療法」と報告している。広瀬ら9)は、「鍼灸などの東洋医学的手法は、直接、子供に触れる治療である、触れることは自律神経系のバランスを取る」としている。著者ら10)は、鍼灸院における小児三大症状(睡眠・カンムシ・アレルギー)について、4回の小児はりきゅう治療で、全項目が有意に改善したことを報告しており、臨床研究が進みつつある。

3. 小児はりの効果機序

今回の小児はりは、接触鍼で、皮膚に刺入しない鍼を治療に用いている。自律神経のバランスの乱れやストレスによる皮膚の過緊張等を、皮膚に接触する小児はりや灸治療を施すことで、自律神経の異常やホルモンバランスを調整しているものと考える。(引用:傳田光洋)

4. 本研究の限界と今後の課題

小児はり学会認定の自記式評価票を用いることで、小児はりきゅう治療の効果を客観的に振り返ることができ、臨床の手応えを裏付けることに繋がった。今後はさらに症例を増やすとともに、初診時に野口ら15)作成の「小児健康調査票」を実施することで、より小児はりきゅう治療を訪れる患者の背景や効果の要因分析などに活かせるものと考える。

V. 結語

初診時「睡眠症状(広義の夜泣き)」の調査でスコア1以上に記載のあった83名(男児38名、女児45名、平均年齢2.2±2.8歳)の夜泣き時を対象に4回の小児はりきゅう治療を行った。

その結果

  • 大項目「睡眠症状(広義の夜泣き)」、小項目‘(狭義の)夜泣き’‘寝付きが悪い’‘途中覚醒’の3つのスコアと途中覚醒の回数において有意な改善がみられた。
  • 保護者の満足度は、満足が90.4%と非常に高かった。
  • 小児はりきゅう治療は、小児科的には病気ではないとされる「睡眠症状(広義の夜泣き)」の症状改善に有効な治療方法であることが示唆された。

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