中医臨床 2013年9月号(小児 77症例の効果検討)|中医臨床|専門誌・学会論文|大阪市天王寺区のまり鍼灸院

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専門誌・学会論文

2018年01月11日

中医臨床 2013年9月号(小児 77症例の効果検討)

中医弁証論治による小児鍼治療-77症例の効果検討-

はじめに

小児鍼(接触鍼・刺さない鍼)は、他の鍼灸カテゴリー(肩こり、腰痛、膝痛等)と比べて、症例集積報告や臨床試験が少ないと言われている。小児来院時の主訴に多い睡眠障害やカンムシは小児鍼がよく効くことは周知の事実である。私も臨床上、小児鍼治療により症状が改善されることを実感している。また、小児鍼は鍼灸業界の発展・拡大が期待できるカテゴリーである。

我々は、第61回全日本鍼灸学会学術大会(三重大会)にて、小児鍼問診票を用いて小児鍼の4回施術により、「睡眠障害」「カンムシ」の悩みスコアが有意に改善することを報告した。

今回は、小児三大症状(睡眠障害・カンムシ・アレルギー)の改善に加え、アレルギー症状に関して、4回・9回の施術により保護者の気になる程度や症状に改善が見られるか否か、小児鍼治療に対する満足は得られるか検討したので報告する。

研究方法

1.対象

当院にて、2009年7月~2012年7月(36ヵ月)に来院した小児患者77名(男児31名、
女児46名)(平均年齢3.2歳±3.1歳)。

2.方法
  1. 検討事項
    ①小児の初診時三大症状に対する、4回の小児鍼治療効果を検討した(n=77)。
    ②小児の初診三大症状に対する4回・9回の小児鍼治療効果を検討した(n=40)。
    ③小児鍼(アトピー性皮膚炎、湿疹・痒み、アレルギー性鼻炎)の4回・9回の施術と限られた回数で得られる効果を確認した(n=26)。
    ④小児鍼に対する保護者の治療満足度を検討する。
  2. 問診時期:初診時と4診目施術後(以下4回後)、9診目施術後(以下9回後)に実施した。
  3. 問診票:小児鍼問診票(小児はり学会認定)を用いた。(図1、2)
  4. 評価方法
    ⅰ)気になる程度:0~4の5段階にて評価した。(これは保護者の気持ちであり、症状の改善に比例するとは限らない。)
    ⅱ)症状の程度:NRS(Numerical Rating Scale)を用いて0~10の11段階にて評価した。ⅰ)ⅱ)はスコアが大きい程、症状が強いことを示す。
    ⅲ)治療満足度:100点法にて鍼灸治療に対する満足度を評価した。点数が高い程、満足度は高いことを示す。
  5. 統計分析:施術4回後の施術効果は、対応のあるt検定を実施した。
    次に、施術4回後・9回後の施術効果の解析は、一元配置分散分析を実施し、有意差みられた場合には多重比較検定としてDunnett法を用いた。
    なお、統計分析のソフトはSPSS(ver1.5 forWindows,SPSS Inc)を用い、有意水準は5%とした。
  6. 治療法
    ⅰ)鍉鍼(銀製)を用いて本治法(弁証配穴)を施した。
    ⅱ)線香灸を隠白・少商に加え、冷えや湿り気のある部分に施した。線香灸は線香の熱を近づけて温める。
    ⅲ)大師流小児鍼を皮膚の緊張の調節に用いた。
    ⅳ)吸玉はアレルギーを有する小児の神闕に施した。鍼はすべて接触鍼で、刺さない。
3.治療
  1. 本治:中医弁証論治による配穴を施した。
    小児の治療の為、少ない刺激量で調節する目的で豪鍼は用いず、鍉鍼(銀鍼)を用いた。また、お灸についても、少ない刺激量で調節する目的で線香灸を用いた。
    隠白・少商については、気血共に最も充実している手足陽明経の正穴であり、鬼信穴(自律神経の調節によく用いられる)でもある。2穴をすべての小児患者に用いた。
  2. 標治:標本兼治により、ある程度標の症状を改善できるが、より効果を向上させる為に刺激量の調節しやすい大師流小児鍼を、本治や標治に関連する経絡上や経穴に用いた。
    アレルギーについては、免疫向上の効果があり、益気培元・回陽救逆の経穴、即ち神闕を用いた。

小児鍼の中医弁証論治タイプ

小児鍼の中医弁証タイプは大きく3つ(腎気虚・脾気虚・肝欝気滞)に分けている。実際には、肺脾気虚や肺腎気虚もあるが、この3つをベースにした治療を進め、随証加減することにしている。0~3歳児は、本人に問診する事が難しく、皮膚や肌肉の状態を保護者と一緒に確認していく必要がある。

  1. 腎気虚
    症状:皮膚の色が茶~黒っぽい、肌肉が細い、皮膚が乾燥しやすい、動きたがらない、小腹に力がない(虚)
  2. 脾気虚
    症状:皮膚の色が白~黄色い、肌肉が柔らかい、汗をかきやすい、便溏、下痢が多い、納呆、納少、大腹に力がない(虚)
  3. 肝欝気滞
    症状:イライラしやすい、肌肉が脹っている、鼻根に青筋がみられる、便秘になりやすい、季肋部に脹りがある(実)、興奮しやすい
治療イメージ

治療イメージ

結果

1.来院時主訴分析(図3)

小児鍼患者の来院時の主訴を分類した結果

  • 1位 睡眠障害(夜泣き、途中覚醒、寝付き等) 37.7%
  • 2位 カンムシ(キーキー声、怒る・イライラ等) 22.1%
  • 3位 アレルギー(アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎等) 15.6%

1・2・3位で75%を占めていた。上位3位のカテゴリーは鍼灸の得意分野であると考える。しかし、私の経験では上位2つと比べて、アレルギーは満足のいく改善までの期間が長くかかると感じている。ゆえに、4回の施術効果よりも、長期のデータトレンドを分析する必要性がある。今回は、施術4回と9回についても詳しく分析検討した。

2.初診時三大症状の鍼灸治療効果
①短期の治療効果:初診vs4回後(n=77)(図4)

初診時三大症状である「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」について、気になる 程度を初診時と4回後を比較した結果、すべてのスコアに有意な改善がみられた。これは小児鍼治療3~4回で症状の程度は軽減する事を示している。平均値では、アレルギーの改善の程度が小さかった。

②継続治療の効果:初診vs 4・9回後(図5)

今回の対象者77名の内、9診目まで治療を継続した40名の継続治療の効果を検討した。三大症状すべてにおいて、初診vs 4回後・初診vs 9回後で気になる程度スコアに有意に改善がみられた。しかし、「カンムシ」「アレルギー」については、4回後と9回後の平均スコアが同じであった。「カンムシ」については、症状が軽減すると保護者と相談して、治療頻度を少なくすることも関係していると考える。「アレルギー」については、9回後の時点では、同じ治療頻度である。各々のアレルギー症状別に、どのように変化しているか次に示す。

3.アレルギー症状に対する鍼灸治療の効果:初診vs 4・9回後(図6)

アレルギー症状を「アトピー性皮膚炎」「湿疹・痒み」「アレルギー性鼻炎」に分けて、初診vs4回後・初診vs9回後で症状の程度スコアを比較した結果、「アトピー性皮膚炎」「アレルギー性鼻炎」では、治療回数に比例して平均値は改善しているが、スコアに有意差はみられなかった。「湿疹・痒み」については、4回後のスコアに有意差がみられた。
アレルギーについては、もう少し長期で対象者を増して再検討する必要はあるが、鍼灸治療により、4・9回後に改善傾向がみられた。「アレルギー」症状に対する小児鍼治療満足度に関しては、『4.小児鍼に対する治療満足度』にて詳しく述べる。

4.小児鍼に対する治療満足度(図7)

小児鍼治療全般に対する満足度は、90点以上は4回後で45%、9回後で49%、70点以上は4回後で95%、9回後で98%と治療回数に応じて満足度は高まる傾向であった。
「アレルギー」対象者の満足度は、90点以上54%、70点以上93%と高かった。アレルギー症状に対する鍼灸治療効果で、平均スコアが改善したことが、満足度にも反映されていると考えている。「アレルギー」は症状の改善には時間を要するが、小児鍼の満足を得られやすい症状であることが示唆された。また、小児鍼のカテゴリーは、4回後(即ち3回の治療)で高い満足が得られやすい。鍼灸の素晴らしさを早期に伝えることが出来るカテゴリーといえる。

5.アトピー性皮膚炎治療効果(初回治療前~4回後~9回後)
症例1)3ヶ月 男児

症状:2ヶ月位から顔面部や頚部にアトピーがみられた。アトピーが出ている部分にはステロイドを塗布していた。

  • 初診時
    初診時
  • 4回後
    4回後
  • 9回後
    9回後
  • 初診時
    初診時
  • 4回後
    4回後
  • 9回後
    9回後
コメント
日によって痒みが出ることもあるが、ステロイドを塗布しなくてもよい日がでてきた。痒みで夜中に途中覚醒があったが、徐々に睡眠もとれるようになってきた。全身にみられたアトピー性皮膚炎は、かなり減少した。
症例2)3か月 男児

症状:生後2ヶ月頃から、顔面部・頚部に赤い湿疹が出てきた。アトピーと涎で赤みが強かった。ステロイドも塗布していた。

  • 初診時
    初診時
  • 4回後
    4回後
  • 9回後
    9回後
  • 初診時
    初診時
  • 4回後
    4回後
  • 9回後
    9回後
コメント
少しずつ顔面部や頚部の赤みもひいてきた。徐々にステロイドも塗る頻度が減ってきた。今は離乳食を進めながら、小児鍼を継続している。
保護者の声

小児鍼の効果は、保護者に判断が委ねられる。彼らにどういった点で満足が得られているか、保護者の感想を紹介する。(図8)

考察

  1. 小児鍼三大症状「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」では、4回後ですべてスコアが有意に改善した。実際臨床上では、1回の施術でもほとんどの小児に、何らかの効果が確認できる。初診時から、身体の診察ポイントを保護者に説明し、その変化を観察して、1回の小児鍼治療で体表に良い変化が得られることを理解してもらう。また、症状の改善傾向について、3~4回の治療で実感できることが治療継続の大きなポイントであると考えている。
  2. 今回、アレルギーについて「アトピー性皮膚炎」「湿疹・痒み」「アレルギー性鼻炎」に分けて詳しく分析検討した。「湿疹・痒み」の4回後にスコアが有意に改善した。他はスコアに有意差はみられなかった。しかし、「アトピー性皮膚炎」「アレルギー性鼻炎」は平均値では加重効果がみられた。治療回数を9回後まで増し、アレルギーに限定すると、対象人数が23人と少なくなることも、スコアに有意差がみられない原因と考える。また、「アレルギー」対象者の治療満足度は、70点以上が93%と高い。今後症例数を増やし追跡する必要がある。
  3. 小児鍼治療満足度は、100点満点中80点以上が4回後で95%、9回後で98%であった。これは、非常に高い満足度といえる。また、治療継続により満足度は高まる。また、40点以下の者は0%であった。鍼灸業界として自信を持って、推奨できるカテゴリーと言える。
  4. 本研究は、一鍼灸院の小児患者調査であり、次のような限界がある。まず、無治療対照群の設定がなされていない。次に、血中のIgE値や好酸球数等の変化が調査できていなかった。江川ら1)は、ステロイドを含む薬物に抵抗を示した。20代女性の3症例について、鍼灸治療により、IgE値や好酸球数が改善したと報告している。掻痒感もVASにより調査されているが、患者が乳幼児の時もあり測定が難しい。今後は、大学等の研究機関と共同で詳しく検証できることを期待する。

結語

今回の調査結果により、「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」については、77名の4回後、40名の4・9回後(治療継続による効果)、いずれもスコアに有意な改善がみられた。中医弁証論治による小児鍼は満足度も高く、早期に効果が実感できるカテゴリーであることが示唆された。つまり、鍼灸の良さを小児の治療から情報発信可能である。当院でも、小児鍼から、その両親や祖父母まで通院するケースも多い。

アレルギーの詳細については、平均値の改善が主で有意差はみられなかったが、治療満足度の高さからも、対象者を増やして再調査・分析・検討すべきである。

また、三大症状「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」については、各々施術効果の関連性については、もっと詳しく分析する必要がある。例えば、「睡眠障害とカンムシ」「睡眠障害と便通異常」「睡眠障害とアレルギー」と、重複する症状の組み合わせによって、効果の出る施術回数に変化があるか否かの分析を検討したい。

また、今回は中医弁証論治による配穴法を採用した、小児鍼対象者全体の効果である。今後は、各弁証タイプ別の効果も確認する必要がある。

小児鍼の普及には、これらデータの蓄積と広報が必要であると考える。今後も鍼灸業界として、小児鍼の効果をより具体的に鍼灸業界、医療業界や保護者にアピールできるように、日々臨床に取り組んでいきたいと考える。

謝辞

本報告の作成ならびに分析の解釈にあたり、関西医療大学の坂口俊二先生にはひとかたならぬご指導を賜りました。心より感謝致します。

参考・引用文献

1)谷岡 賢徳:大師流小児鍼-奥義と実践、六然社、2005
2)江川雅人,苗村健治,山村義治ら:薬物療法に抵抗を示した成人型アトピー性皮膚炎3症例に対する鍼灸治療.明治鍼灸医学,第28号:15-27(2001)

(図1)小児問診票(TOP)
(図2)小児問診票(アレルギー項目)
(図3)来院時第一主訴
(図4)項目別気になる程度 5段階評価平均(初回・4回後)
(図5)項目別気になる程度 5段階評価平均(初回・4回後・9回後)
(図6)アレルギー悩み度NRS
(図7)小児鍼に対する治療満足度
(図8)保護者の声

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