2018年01月11日
中医弁証論治による小児鍼治療-77症例の効果検討-
小児鍼(接触鍼・刺さない鍼)は、他の鍼灸カテゴリー(肩こり、腰痛、膝痛等)と比べて、症例集積報告や臨床試験が少ないと言われている。小児来院時の主訴に多い睡眠障害やカンムシは小児鍼がよく効くことは周知の事実である。私も臨床上、小児鍼治療により症状が改善されることを実感している。また、小児鍼は鍼灸業界の発展・拡大が期待できるカテゴリーである。
我々は、第61回全日本鍼灸学会学術大会(三重大会)にて、小児鍼問診票を用いて小児鍼の4回施術により、「睡眠障害」「カンムシ」の悩みスコアが有意に改善することを報告した。
今回は、小児三大症状(睡眠障害・カンムシ・アレルギー)の改善に加え、アレルギー症状に関して、4回・9回の施術により保護者の気になる程度や症状に改善が見られるか否か、小児鍼治療に対する満足は得られるか検討したので報告する。
当院にて、2009年7月~2012年7月(36ヵ月)に来院した小児患者77名(男児31名、
女児46名)(平均年齢3.2歳±3.1歳)。
小児鍼の中医弁証タイプは大きく3つ(腎気虚・脾気虚・肝欝気滞)に分けている。実際には、肺脾気虚や肺腎気虚もあるが、この3つをベースにした治療を進め、随証加減することにしている。0~3歳児は、本人に問診する事が難しく、皮膚や肌肉の状態を保護者と一緒に確認していく必要がある。
小児鍼患者の来院時の主訴を分類した結果
1・2・3位で75%を占めていた。上位3位のカテゴリーは鍼灸の得意分野であると考える。しかし、私の経験では上位2つと比べて、アレルギーは満足のいく改善までの期間が長くかかると感じている。ゆえに、4回の施術効果よりも、長期のデータトレンドを分析する必要性がある。今回は、施術4回と9回についても詳しく分析検討した。
初診時三大症状である「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」について、気になる 程度を初診時と4回後を比較した結果、すべてのスコアに有意な改善がみられた。これは小児鍼治療3~4回で症状の程度は軽減する事を示している。平均値では、アレルギーの改善の程度が小さかった。
今回の対象者77名の内、9診目まで治療を継続した40名の継続治療の効果を検討した。三大症状すべてにおいて、初診vs 4回後・初診vs 9回後で気になる程度スコアに有意に改善がみられた。しかし、「カンムシ」「アレルギー」については、4回後と9回後の平均スコアが同じであった。「カンムシ」については、症状が軽減すると保護者と相談して、治療頻度を少なくすることも関係していると考える。「アレルギー」については、9回後の時点では、同じ治療頻度である。各々のアレルギー症状別に、どのように変化しているか次に示す。
アレルギー症状を「アトピー性皮膚炎」「湿疹・痒み」「アレルギー性鼻炎」に分けて、初診vs4回後・初診vs9回後で症状の程度スコアを比較した結果、「アトピー性皮膚炎」「アレルギー性鼻炎」では、治療回数に比例して平均値は改善しているが、スコアに有意差はみられなかった。「湿疹・痒み」については、4回後のスコアに有意差がみられた。
アレルギーについては、もう少し長期で対象者を増して再検討する必要はあるが、鍼灸治療により、4・9回後に改善傾向がみられた。「アレルギー」症状に対する小児鍼治療満足度に関しては、『4.小児鍼に対する治療満足度』にて詳しく述べる。
小児鍼治療全般に対する満足度は、90点以上は4回後で45%、9回後で49%、70点以上は4回後で95%、9回後で98%と治療回数に応じて満足度は高まる傾向であった。
「アレルギー」対象者の満足度は、90点以上54%、70点以上93%と高かった。アレルギー症状に対する鍼灸治療効果で、平均スコアが改善したことが、満足度にも反映されていると考えている。「アレルギー」は症状の改善には時間を要するが、小児鍼の満足を得られやすい症状であることが示唆された。また、小児鍼のカテゴリーは、4回後(即ち3回の治療)で高い満足が得られやすい。鍼灸の素晴らしさを早期に伝えることが出来るカテゴリーといえる。
症状:2ヶ月位から顔面部や頚部にアトピーがみられた。アトピーが出ている部分にはステロイドを塗布していた。
症状:生後2ヶ月頃から、顔面部・頚部に赤い湿疹が出てきた。アトピーと涎で赤みが強かった。ステロイドも塗布していた。
小児鍼の効果は、保護者に判断が委ねられる。彼らにどういった点で満足が得られているか、保護者の感想を紹介する。(図8)
今回の調査結果により、「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」については、77名の4回後、40名の4・9回後(治療継続による効果)、いずれもスコアに有意な改善がみられた。中医弁証論治による小児鍼は満足度も高く、早期に効果が実感できるカテゴリーであることが示唆された。つまり、鍼灸の良さを小児の治療から情報発信可能である。当院でも、小児鍼から、その両親や祖父母まで通院するケースも多い。
アレルギーの詳細については、平均値の改善が主で有意差はみられなかったが、治療満足度の高さからも、対象者を増やして再調査・分析・検討すべきである。
また、三大症状「睡眠障害」「カンムシ」「アレルギー」については、各々施術効果の関連性については、もっと詳しく分析する必要がある。例えば、「睡眠障害とカンムシ」「睡眠障害と便通異常」「睡眠障害とアレルギー」と、重複する症状の組み合わせによって、効果の出る施術回数に変化があるか否かの分析を検討したい。
また、今回は中医弁証論治による配穴法を採用した、小児鍼対象者全体の効果である。今後は、各弁証タイプ別の効果も確認する必要がある。
小児鍼の普及には、これらデータの蓄積と広報が必要であると考える。今後も鍼灸業界として、小児鍼の効果をより具体的に鍼灸業界、医療業界や保護者にアピールできるように、日々臨床に取り組んでいきたいと考える。
本報告の作成ならびに分析の解釈にあたり、関西医療大学の坂口俊二先生にはひとかたならぬご指導を賜りました。心より感謝致します。
1)谷岡 賢徳:大師流小児鍼-奥義と実践、六然社、2005
2)江川雅人,苗村健治,山村義治ら:薬物療法に抵抗を示した成人型アトピー性皮膚炎3症例に対する鍼灸治療.明治鍼灸医学,第28号:15-27(2001)
(図1)小児問診票(TOP)
(図2)小児問診票(アレルギー項目)
(図3)来院時第一主訴
(図4)項目別気になる程度 5段階評価平均(初回・4回後)
(図5)項目別気になる程度 5段階評価平均(初回・4回後・9回後)
(図6)アレルギー悩み度NRS
(図7)小児鍼に対する治療満足度
(図8)保護者の声
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