陳旧性顔面神経麻痺症状(発症後1年以上経過しても治っていない顔面神経麻痺)に対する鍼灸治療の効果 -発症後1年以上複数症例-|第45回日本顔面神経学会,顔面神経麻痺|学会発表|大阪市天王寺区のまり鍼灸院

menu

学会発表

2023年01月17日

陳旧性顔面神経麻痺症状(発症後1年以上経過しても治っていない顔面神経麻痺)に対する鍼灸治療の効果 -発症後1年以上複数症例-

第45回日本顔面神経学会にて「陳旧性顔面神経麻痺症状に対する鍼灸治療の効果-発症後1年以上複数症例-」について発表いたしました。

目的

顔面神経麻痺発症後1年を経過した陳旧性顔面神経麻痺症状(以下、麻痺症状)の改善は困難とされています。
今回、初診時に発症後1年以上経過した麻痺患者を診療録より後ろ向きに調査し、鍼灸治療の効果について検討いたしました。

対象期間

2009年7月~2021年6月

対象者

陳旧性顔面神経麻痺を主訴として来院した患者のうち、以下の条件に当てはまる8名です。

  1. 麻痺発症後1年以上3年未満かつ麻痺症状がある者
  2. 鍼灸治療を10回以上受けた者(最終は最大35回)

平均年齢は49.8±24.9歳、男性3名、女性5名です。
各々の調査は8名中データが調査可能であった者としました。

対象者の背景因子

ハント症候群3名、ベル麻痺3名、外傷1名、真珠腫1名でした。
発症からの初診時日数は658±329.2日でした。

調査内容

  1. 柳原法で麻痺の程度を得点化しました。
  2. 柳原法10項目の表情を写真で撮影しました。
    *1・2は治療5回毎に行いました。
  3. ADLはFaCE Scale日本語版にて患者に評価してもらいました(月1回)。
  4. 病的共同運動をSunnybrook法で得点化しました。
  5. 顔面拘縮・顔面痙攣・ワニの涙について、NRS(Numerical Rating Scale 0~10)を用いて得点化しました。
    *4・5は初回と最終に行いました。
  6. 麻痺症状に対する鍼灸治療の満足度を10点法にて患者本人に評価してもらいました(治療10回目)。
    *7点以上を満足としました。

評価方法

  1. 柳原法は治療初回から5回毎に経時的変化を中央値にて検討しました。
  2. Sunnybrook法、NRSは変化を中央値にて検討しました。
    *1.2は初回と最終を比較しました。
  3. FaCE Scaleは初回から1ヵ月毎に6回の変化を検討しました。

柳原40点評価法

柳原法は、顔面の表情10項目の動きに対して評価を行います。0.2.4の3段階評価で採点し、点数が低いほど症状が強いことを示しています。4点はほぼ正常、2点は部分麻痺、0点は高度麻痺に分類されます。術者以外の第三者が評価を行いました。 38点以上を治癒とし、初診時と最大を35回とした治療最終時を比較しました。

「①安静時非対称 ②額のしわ寄せ ③軽い閉眼 ④強閉眼 ⑤片目つぶり ⑥鼻翼を動かす ⑦頬を膨らます ⑧イーと歯を見せる ⑨口笛 ⑩口をへの字に曲げる」の10項目で表情筋の動きを診ていきます。評価は術者以外の第三者が行い、0・2・4の3段階評価で採点し、40点満点中38点以上を治癒と判定しています。柳原法の合計点数が低いほど顔面神経麻痺症状が強いことを示し、顔面の表情の主要な部位に傾斜配点をすることで障害の程度や、病初期、途中経過等の麻痺の程度の評価や予後の予測判断として用います(引用:顔面神経麻痺診療の手引2011年版)。

治療方法

全身調整として中医弁証論治により配穴しました。
局所治療として、麻痺側顔面部の症状に応じて、顔面部の麻痺側に8カ所、非麻痺側3カ所に長さ30ミリ直径0.18ミリの単回使用毫鍼を8分間置鍼しました。
灸は、麻痺側の刺鍼穴と重複した3穴に、8分灸を3壮行いました。
治療頻度は1~2週に1回程度とし、平均治療回数は25±12.5回でした(最大35回)。

結果1 治療開始後10~15回で顕著に改善しました

表情筋の機能は、治療開始後10~15回で顕著に改善傾向が見られました。
また、15回以降にも改善は見られました。

結果2 柳原法合計点数は大幅に改善しました

対象となる7名の中央値は、初回16から最終32(40点満点)に変化しました。
対象者の中、1名は38点の完治レベルまで改善しました。 悪化した例はありませんでした。

結果3 Sunnybrook法(FGS)のスコアは全ての項目で改善しました

安静時対称性、随意運動の対称性、病的共同運動、複合スコアの全4項目で改善しました。
悪化した例はありませんでした。

結果4 顔面拘縮・顔面痙攣・ワニの涙(食事の時に涙が出る症状)も改善しました

同スコアであった1名をのぞく7名の症状に改善が見られました。
特に、ワニの涙は7名とも大幅に改善し、最終で軽度から0に改善された方もいらっしゃいます。

結果5 治療満足度は対象者全員が満足でした

対象者7名のうち、7点(治療満足度は10点法)を付けられた方が28.6%、8点を付けられた方が28.6%、9点を付けられた方が14.2%、10点を付けられた方が28.6%でした。
全体で7点以上が100%満足と、非常に高い満足を得られています。

まとめ

陳旧性顔面神経麻痺の麻痺症状はほとんど改善することがないとされていますが、鍼灸治療により、発症後1年以上経過した陳旧性顔面神経麻痺でも、柳原法合計点、FGS、FaCE Scaleと、顔面拘縮・顔面痙攣・ワニの涙の自覚症状でも改善傾向がみられました。満足度も対象者の100%が満足を示す7点以上でした。現在の麻痺症状が治療により改善し、日常生活における苦痛と将来に対する不安感を軽減することが示唆されました。